何も無いのはこっちだったか。
「いやー、もううちは足りてるから」
「そうですか。またよろしくお願いします・・・」
富山を飛び出し、10年。
ぎゅうぎゅう詰めの電車に揺られて、小さな会社のデスクに向かう。
こんな未来が待っているとは、あのときは思ってなかった。
午前11時の公園。
目の前には、元気に遊ぶこどもたちとそれを見守るお母さんたち。
あれから5年くらい地元には帰っていないけど、
ぼくにもこんな幼いときがあったのか。
あの町には、海があり、山があり、
田んぼでザリガニ釣りなんかしていた。
友人もいた。家族もいた。
たしか、恋人だっていた。
何も無いのはこっちだったか。
下を向くと、そこには小さな花が。
少し目を閉じてから、ぼくは立ち上がった。
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